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座談会05 指導医に聞け! 出席者:村上祐介、福島正俊
出席者プロフィール
  • 村上 祐介
    村上 祐介

    平成15年九州大学卒。網膜変性の治療開発を目指して研究を続けています。

    趣 味  : ランニングで悩みを忘れること。読書(村上春樹さんの小説とエッセイが好きです)。ドライブ・マイ・カー、見に行こうと思っています。
  • 福嶋 正俊
    福嶋 正俊

    平成28年九州大学卒。平成30年に九大眼科入局し、令和3年に大学院入学、大学院1年目です。現在は村上祐介先生のもと網膜変性の研究をしています。「ブレークスルー」をテーマに、これまでの研究生活を振り返って、そして今後目指す先について、指導医である村上先生にお話しを伺いました。

福嶋:
今日は先生のこれまでのキャリアや研究内容について聞いてみたいと思います。よろしくお願い致します。
村上:
はい!私の事だけでなく今まさに研究をしている福嶋先生の意見も聞いてみたいですね。よろしくお願いします。
研究を始めたきっかけ
患者さんに届けられる研究をしたい
福嶋:
先生が研究を始めたきっかけについて教えて下さい。
村上:
大学5年生~研修医の頃を通して今の医療では原因が分からない、治療ができない患者さんがいることを感じ、その問題を解決できたらいいなというのがスタートですね。そんな時に、先輩の池田先生(現:宮崎大学教授)に誘っていただいて研究を始めました。ただ福嶋先生もそうだと思うのですが「こんな研究がしたい!」というのがあったわけではないです。福嶋先生はどうして研究を始めたのですか?
村上先生
福嶋:
僕も患者さんと接して治らない病気をみて大学院に入りましたが、僕も具体的に研究テーマを決めているわけではなかったです。
村上:
そうですよね(共感)。研修医の頃から研究の具体的なビジョンが見える事は、中々難しいことだと思います。
福嶋:
大学院で研究を始めたときはどの様な研究をしたのですか?
村上:
私が頂いたテーマは「網膜色素変性に対する神経保護遺伝子治療の作用メカニズムの解明」でした。過去の研究で、PEDFという神経栄養因子を遺伝子治療で網膜に高発現させると、網膜色素変性モデルの進行が遅くなることが分かっていました。その治療を臨床応用するにあたり、治療効果が出るメカニズムを調べてほしいという提案です。 当時は糖尿病網膜症や加齢黄斑変性などの新生血管病の研究テーマが花形でしたが、いわゆるメジャーな領域の研究でなくても、患者さんの治療につながるという部分がとても魅力的に感じました。 大学院の2005~2009年にこの研究に取り組んでいたのですが、2013年に臨床研究が始まって、実際に網膜色素変性の患者さんに遺伝子治療薬の投与を行った時は感慨深かったですね。
福嶋:
実際に研究成果を患者さんに届ける「Bench to Bedside」を目指す人は多いと思いますが時間も数年単位でかかりますし、実現には厳しさもあると聞いたことがあります。
村上:
そうですね。福嶋先生が言うように「Bench to Bedside」を本気でやり遂げることはとても大変です。研究成果で治療の可能性は見えるけれど、実現しないで終わる研究がほとんどと言ってもいいと思います。
留学での経験
Clinician Scientistを目指して
福嶋:
大学院卒業後は留学されていますが留学先ではどんな事を経験されたのでしょうか?
福嶋先生
村上:
留学先のHarvard大学の教室にはJoan Miller先生とDemetrios Vavvas先生という二人の指導医の先生のもと、「神経保護」をテーマに神経変性の治療に対する研究をしました。ハーバード大学には一流の基礎研究者がたくさんいて、ランチを食べていると後ろに座っている人がノーベル賞受賞者とかそういう事が普通にあり(笑)、日本と環境が全然違うことにびっくりしました。留学先のMiller先生は今の眼科診療では当たり前となっているPDTと抗VEGF薬の開発・臨床応用に深く携わった先生です。Miller先生はまさに「Bench to Bedside」を重視していて、眼科医として臨床もするし、一方で基礎研究もやるというClinician Scientistが、基礎―臨床の橋渡しに必要不可欠だということを言っていましたね。留学を通して「自身の研究を少しでも患者さんに還元する」という事にプライオリティーが高まった気がします。
これまでの研究について
「しつこく」やることが大事
福嶋:
今まで色々な研究をされていますが、印象に残っている研究やブレークスルーとなった出来事はありますか?
村上:
そうですねえ・・・個人的には大きなブレークスルーは起こせてないので何とも言いにくいのですが(笑)。個別の研究だと分子やマテリアルがうまく揃って研究の価値が高まったという経験はありますが、全体で考えると大きな目標に対して「しつこく」やることが大事なのかなと思います。例えば網膜色素変性の遺伝子治療も大変でした。研究をやっているうちに遺伝子治療業界全体が落ち込んだり(今はまた盛り上がっていますが)、クリティカルな批判を受けたりという事がたくさんありました。ですが、そんな逆風の中でもコツコツとデータを積み上げることが、結果として患者さんに届く治療につながると思います。
福嶋:
そうやって頑張ってこそ患者さんに届く研究ができるんですね。
村上:
そうですね。Miller先生たちが抗VEGF薬を開発した時にも、「たった1つの分子をターゲットにしても治療効果はあるのか?」とか「眼科の市場が小さい」などの否定的な意見が多かったそうです。それでも開発を一つずつ積み上げて今では標準治療になりました。VEGFが眼疾患に関わっている事は、1994年にMiller先生がいた教室(Dr. Folkmanラボ)から発表されたのですが、実は同時期に日本でも発見されているんです。ですが、現在は欧米から数種類の抗VEGF薬が出ていて、中国産の抗VEGF薬や韓国産のバイオシミラーもある中で、残念ながら国産の抗VEGF薬の開発は⼤きく遅れてしまっています。
福嶋:
スタート地点では同じ地点にいたのに残念ですね。
村上:
そうですよね。社会的背景や規制の問題など、色々な事情があるとは思いますが、考えさせられますよね。
福嶋:
今後はどのような研究をしていきたいですか?
村上:
私自身はClinician Scientistとして、基礎研究の成果を臨床へ繋げる橋渡しを少しずつ進めていきたいと思っています。橋渡し研究は分からないことだらけで、多方面の先生方にご指導いただきながら、目下勉強中です(笑)。今後の研究は・・・福嶋先生の様な若い先生達が作っていく未来だと思います。福嶋先生は今後どういう感じで研究をしていきたいと思っていますか?
福嶋:
うーん、具体的な道はまだわかりませんが、患者さんの治療につながる研究がしたいと思っています。
村上:
そうですよね、良い研究をするためには、課題の設定も大事ですけど、新しいテクノロジーを使わないとなかなかブレークスルーは難しいと思います。近年はAIやバイオインフォマティクス、シングルセルシークエンス、マルチオミクスなどの技術が出てきて、以前は分からなかったことが全体的に捉えられるようになってきています。若い先生達には、そういった技術を取り入れながら研究を頑張って欲しいです。福嶋先生の様な若い先生たちがのびのびと研究できるようにサポートすることが、私のこれからの役割の一つだと思っています。
福嶋:
分かりました、がんばります!今日はありがとうございました。
福嶋先生と村上先生

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