目の病気よろず相談室 九州大学眼科で治療している代表的な疾患について解説いたします

遺伝性網膜疾患(IRD)

村上 祐介

准教授

村上 祐介

遺伝性いでんせい網膜もうまく疾患しっかん(IRD)とは

 遺伝性網膜疾患(IRD:Inherited Retinal Diseases)とは、遺伝子の変化が原因で、網膜(目の奥の神経の膜)が徐々に弱っていく病気の総称です。代表的な病型には網膜色素変性(RP)、黄斑ジストロフィ、レーバー先天性黒内障などがあります。症状は病型によって異なりますが、もっともよくみられるRPでは、夜になると見えにくい(夜盲)、まぶしさ、視野が狭くなる、視力が徐々に低下するなどがみられます。RPは一般的にゆっくり進行しますが、病気の進み方や症状には個人差があります。

眼球の網膜(光や色を感じる組織)の場所を指すイラスト

 なぜこのような病気が起こるのでしょうか。私たちの体の細胞は、「遺伝子」と呼ばれる設計図をもとに作られ、働いています。IRDでは、この遺伝子に変化(バリアント)があるために、網膜の細胞が正常に働けなくなり、徐々に障害が進んでいきます。現時点では、IRDに対する根本的な治療はまだ確立されていません。しかし近年では、遺伝子治療、再生医療、進行を抑える薬剤の開発などが進んでおり、治療の可能性が広がってきています。そのため、どの遺伝子に変化があるのかを調べ、正確に診断することがとても重要になっています。
当院では、原因となる遺伝子を調べる「遺伝学的検査」を行っています。本検査は、RPE65関連網膜症に対する遺伝子治療薬(ルクスターナ®)の承認にあわせ、2023年より保険診療として実施可能となりました。検査を行うことで、病型や原因をより正確に診断し、今後の病気の進行の見通しや、ご家族への遺伝の可能性を考える参考になります。また、将来受けられる可能性のある遺伝子治療や治験の対象になるかを確認する上でも重要な検査です。
一方で、現時点で保険診療での遺伝学的検査の対象は、RPE65関連網膜症が疑われる比較的若年のIRD患者さんに限られており、希望されるすべての方に実施できるわけではありません。なお、保険診療の対象外となる場合でも、研究として遺伝子解析を実施していますので、詳しくは担当医にご相談ください。
IRDに対する治療法としては、現在のところ、RPE65関連網膜症に対するルクスターナ®のみが承認されています。しかし世界中で、遺伝子治療、再生医療、人工網膜、オプトジェネティクス、薬剤治療など、さまざまな治療法の開発が進められています。九大眼科でも、遺伝子治療薬やナノ粒子治療薬の開発に取り組んでいます。このような新しい治療法や治験について詳しく知りたい方は、担当医までご相談ください。

網膜色素変性(RP)の進行と視野の変化

網膜の変性が進行するにつれて、視野が徐々に狭くなります

初期(軽症期) ・網膜の色素の変化は軽度・夜盲や眩しさを自覚することがある・視野はほぼ正常 中期(中等症期) ・網膜の色素の変化が増える・視野の周辺が欠け始める(輪状暗転)・暗い場所での見えにくさが進行 進行期(重症期) ・網膜の黄斑部(中心部)にも変性が及ぶ・視野が著しく狭くなる(求心性視野狭窄)・中心の視力も徐々に低下することがある

遺伝子検査から治療・治験へ

  • ❶ 採血

    腕の静脈から血液を採取します

  • ❷ DNA解析

    採取した血液を網羅的に解析します

  • ❸ 原因遺伝子の特定

    病気の原因となる遺伝子の変化を特定します

  • ❹ 結果説明・
    カウンセリング

    医師と認定遺伝カウンセラーが検査結果を丁寧に説明します

  • ❺ 治療・治験へ

    検査結果をもとに、治療や治験の選択肢を検討します

現在・将来の治療選択肢

  • 遺伝子治療
    (ルクスターナ®)

    RPE65関連網膜症を対象に遺伝子治療薬が承認されています

  • ナノ粒子治療薬
    (研究段階)

    九州大学では、網膜色素変性の進行を抑制するナノ粒子治療薬(ピタバスタチンナノ粒子)の開発を進めています

  • 再生医療・その他の治療法
    (研究段階)

    iPS細胞などを用いた「再生医療」、光受容デバイスを埋植する「人工網膜」、光感受遺伝子を網膜に届ける「オプトジェネティクス」、病気の進行を抑える「薬剤治療」などの開発が進められています

Q & A

  • Q1. 遺伝学的検査について教えてください。

     保険診療で遺伝学的検査を行う場合には、まず採血を行い、その後約3ヶ月後に結果をご説明します。この検査では、単に遺伝子の変化を調べるだけでなく、見つかった変化が本当に病気の原因となるものかどうかを、複数の専門家が総合的に評価します。そのため、結果が出るまでに一定の時間が必要になります。
    また、検査前の問診や検査結果の説明は、眼科担当医だけでなく、認定遺伝カウンセラーも加わって行います。検査の意味や結果の解釈、ご家族への遺伝の可能性などについて、できるだけ分かりやすく、丁寧にご説明します。

  • Q2. 手術を行うことがありますか?

     IRDそのものへの手術は、現在のところルクスターナ®に限られています。しかし、IRDの合併症に対して手術を行うことがあります。例えば、白内障を合併した場合には白内障手術を行うことで、見え方の改善が期待できることがあります。また、黄斑浮腫(網膜のむくみ)や網膜前膜など、視力低下の原因となる病態に対して点眼の治療や手術を行う場合もあります。

  • Q3. あたらしい治療法について教えてください。

     現在、世界中でさまざまなIRDの治療開発が進められています。代表的なものとして、病気の原因となる遺伝子を補充または修復する「遺伝子治療」、iPS細胞などを用いた「再生医療」、光を感受する遺伝子を網膜に届ける「オプトジェネティクス」、光受容デバイスを網膜に埋植する「人工網膜」、病気の進行を抑える「薬剤治療」などがあります。

    九州大学においても、網膜色素変性の患者さんを対象に、網膜の細胞を守る働きが期待される遺伝子を導入する、遺伝子治療の臨床試験を実施しました。また抗炎症作用を持つナノ粒子治療薬(ピタバスタチンナノ粒子)の開発も進めています。あたらしい治療法や治験について詳しく知りたい場合は、担当医までお気軽にご相談ください。

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