網膜色素変性(Retinitis Pigmentosa、以下RPと略)は、遺伝子の異常によって光を感じる細胞(視細胞)が徐々に失われていく病気です。
RPの頻度は約5,000人に1人で、我が国の失明原因の第2位の難病です。
病気の進行速度は個人個人で異なりますが、一般的には暗いところが見えにくいという症状から始まり、その後だんだんと見える範囲が狭くなり、最終的には中心部の見え方も悪くなってしまいます。
残念ながら現時点ではRPの治療法はありません。
しかしながら、遺伝子治療、再生治療、人工網膜に代表される新しい治療法の開発が世界的に進められており、特に近年のウイルスベクターを用いた遺伝子治療の進歩には、目を見張るものがあります。
九大眼科では、ヒト色素上皮由来因子(hPEDF)という神経栄養因子を用いた遺伝子治療の開発を行っています。
hPEDF遺伝子を搭載したサル由来レンチウイルスベクター(SIV-hPEDF)を眼内に注入(手術で網膜の下に注入)すると、網膜の細胞にhPEDF遺伝子が導入され、眼内にhPEDFが豊富に産生されます(イメージ図1)。
hPEDFには神経細胞を障害から保護する作用があり、RPの疾患モデル動物にSIV-hPEDFを投与すると、視細胞の喪失が大幅に抑制されることを確認しています。
またサルの安全性試験においても、投与後5年間において安全性に大きな問題がないこと、網膜に導入した遺伝子が5年間安定して産生されることが明らかとなっています。
これらの結果を基に、私たちはhPEDFを網膜に遺伝子導入することで、RPの方の視細胞の喪失を防ぎ、病気の進行を遅らせるという治療戦略を立てています(イメージ図2)。
現在九大眼科で行なっている治験は、SIV-hPEDF(開発コードDVC1-0401)の安全性を評価することが主な目的ですが、視力低下や視野狭窄の進行を抑制する効果があるかについても合わせて検証します。
RPに対する治療法がない現状で、多くの患者さんは失明の不安を抱えて日常を過ごされてます。SIV-hPEDFの安全性、有効性が確認され、治療薬としての開発につながれば、失明防止に向けた大きな一歩になると考えています。
九州大学病院では、網膜色素変性に対する遺伝子治療の臨床応用を進めています。我々の遺伝子治療の基本コンセプトは、神経栄養因子(ヒト色素上皮由来因子:hPEDF)遺伝子を搭載したウイルスベクター(DVC1-0401)を眼内に注入し(手術で網膜の下に注入)、hPEDFを過剰発現させるものです。
今回、医師主導治験(第1/2a相)を実施する運びとなりました。治験届を2019年1月15日に提出し、被験者のエントリーを進めています。
この治験の主な目的は、網膜色素変性の患者さんにおいて、治験製品であるDVC1-0401を網膜下投与することの安全性を評価することです。また、眼科検査を行い、視力低下や視野狭窄などの視機能障害の進行を抑制する効果があるかについても合わせて検討します。
治験に参加するためには、外来を受診し、目の状態や全身の状態を確認する必要があります(下記、適応基準、除外基準を参照ください。視力は両目ともに0.3から0.9ぐらいの方が対象となります)。外来を初めて受診される場合は、かかりつけ医からの紹介状と新患予約が必要です(患者さん自身での予約はできません)。
詳細は、九州大学病院のホームページをご参照ください。
治験に参加することになった場合、観察期間(1年間)が終了するまでは、少なくとも月に1回の受診が必要になります。また、観察期間が終了した後も追跡調査が義務付けられており、少なくとも年に1回の受診が必要になりますので、ご了承下さい。
「DVC1-0401 網膜下投与による網膜色素変性に対する視細胞 保護遺伝子治療の第I/IIa 相医師主導治験」
村上 祐介(九州大学病院 眼科 助教)
2019年2月より
12例(低用量群:4例、中用量群:4例、高用量群:4例)
1. 満40歳以上70歳以下の網膜色素変性患者
2. 視機能や病気の進行度の左右差が大きくない患者
1. 両眼の小数視力が0.1未満、もしくは片眼または両眼が失明している患者
2. 視野狭窄が高度な患者
3. 片眼のみ白内障手術が施行されている患者
4. 緑内障やぶどう膜炎などの眼疾患を合併している患者
5. 網膜や網膜下に色変以外の病変(網膜出血など)を合併している患者
6. 心機能障害や肝機能障害など全身状態の悪い患者
7. アルコール依存症、薬物依存症患者、もしくは治験参加に支障をきたす精神疾患を有する患者
8. 悪性腫瘍に罹患中、または過去5年以内に悪性腫瘍の治療を受けた患者
9. 妊娠または授乳中の患者
10. 治験製品投与後最低12ヶ月の避妊に同意が得られない患者
硝子体切除術後に治験製品(DVC1-0401)を網膜下に投与
各症例 治験製品投与後 12ヶ月