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網膜色素変性は、遺伝子のキズが原因で光を感じる組織である網膜が少しずつ障害を受ける病気です。眼底写真を撮ると、網膜に色素を伴った病変が認められます(右図)。人口約5000人に1人の割合で患者さんがいるとされています。最初に自覚する症状は、「暗いところで見えにくい」、「星が見えない」などという夜盲(鳥目)が多いとされています。見える範囲が狭くなる視野狭窄や視力低下も代表的な症状です。
個人差はありますが、一般に病気の進行は緩やかで急に見えなくなることは少ない病気です。急に見えにくくなった場合、眼の中で別の病気(合併症)が起こっている可能性がありますので、なるべく早く眼科医に相談しましょう。
■右図 網膜色素変性の眼底写真
網膜に色素を伴う病変が多数認められます。
必ず遺伝する訳ではありません。網膜色素変性は遺伝子のキズにより発症する病気です。原因となる遺伝子のキズは現在わかっているだけでも約50種類あります。この原因となる遺伝子によって遺伝形式が異なります。遺伝形式は、常染色体優性遺伝(約15%)、常染色体劣性遺伝(約25%)、伴性劣性遺伝(約2%)と様々で、家系に同じ病気の人が確認できず、その遺伝形式が推測できない弧発型が半数を占めます。遺伝の確率が高いとされる常染色体優性遺伝の患者さんは全体としては少なく、必ずしも子供や孫に遺伝しやすい病気ではありません。遺伝子のキズは血液から採取したDNAを解析することで探すことができますが、見つかる確率はまだ高くありません。
世界中で治療法の研究が行われていますが、現時点で有効な薬は残念ながらありません。しかしながら、病気の進行を遅らせることが期待される薬も報告されてきており、近い将来有効な薬が出てくるだろうと予想されています。また、近未来の新しい治療法として、再生医療や遺伝子治療などの研究も進んでおり、わが国でも臨床応用の準備が着々と進められています。一方、治療ではありませんが、「残っている視機能を十分に使って生活の質を上げる」取り組みとして、ロービジョンケアという方法があります。字を見えやすくするルーペや拡大読書器、まぶしさを和らげる遮光眼鏡を使用することがその代表的な方法です。
網膜色素変性は治療法がないので眼科に通院する必要はないと思われている方もいるかもしれません。確かに治療法はないのですが、眼科に定期的に通院した方がよい理由が二つあります。一つは、現在の見え方をご自身や家族が認識し、進行しているのかどうかを理解できる機会になります。障害者手帳を適切に申請できているかどうかも確かめることもできます。もう一つは、合併症を見つけるためです。網膜色素変性には、白内障や眼の中心(黄斑部)の病気が合併しやすいことがわかっています。これらの合併症は、治療することができるものもあります。従って、定期的な診察で合併症を早く見つけることは、予期せぬ視力低下を防ぐために重要です。年に1回から2回が目安です。