九州大学大学院医学研究院眼科分野 九州大学医学部 眼科

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網膜色素変性に対する遺伝子治療 日本初の臨床応用について

概要

 九州大学病院から申請していた網膜色素変性(以下、色変と略)への遺伝子治療臨床研究実施計画(総括責任者:眼科 教授 石橋達朗)が、 平成24年7月13日付開催の第72回 厚生科学審議会・科学技術部会の審議において了承されました。来春の開始を目指して、準備を進めていきます。

背景

 色変は、網膜に存在する光を感じる細胞(視細胞)が徐々に失われていく遺伝性の病気です。
 約5千人に1人の頻度で見られ、青年期より発症し、やがて失明に至る可能性があります。すでに約50種類の遺伝子異常が原因として明らかになっていますが、現在は有効な治療法がなく、厚生労働省から難病と指定され、公費負担の対象となっています。
 本臨床研究では、この難病に対して遺伝子治療という新しい治療法を適用します。眼科における遺伝子治療の臨床応用は、国内では例がなく、本臨床研究が初めての試みとなります。また、遺伝子を運ぶためのベクターには、サル由来のレンチウイルス(SIV)が使用されますが、眼科領域の疾患に対するレンチウイルスベクターの使用は世界初となります。
 本臨床研究実施計画(「神経栄養因子(ヒト色素上皮由来因子:hPEDF)遺伝子搭載第3世代組換えアフリカミドリザル由来サル免疫不全ウイルスベクターの網膜下投与による網膜色素変性に対する視細胞保護遺伝子治療臨床研究」)は、平成20年10月3日に学内承認後、平成22年9月29日に厚生科学審議会に申請されていました。

内容


■網膜色素変性の自然経過と遺伝子治療により予想される治療効果の模式図

 本臨床研究では、遺伝子治療の安全性を確認します。従って、安全性や治療効果が保証されているわけではありません。神経栄養因子であるPEDF遺伝子を搭載したレンチウイルスベクターを網膜に注射します。PEDF遺伝子から眼内に産生されるタンパク質の視細胞保護作用により、視細胞の喪失を防ぎ、視力の悪化を防ぐという治療戦略です。(別添図1 参照)。
 臨床研究計画では、まず第1ステージとして5名の被験者に低濃度のベクター溶液を投与し各々4週間観察します。急性期の異常が認められないことを確認した後、第2ステージで15名の被験者に有効濃度と考えられる量のベクターを投与する計画となっています。本臨床研究は、安全性を確認することを主要な目的としています。最終被験者の投与終了後2年間観察して研究を終了します(添付図2 参照)。
 また、今回使用するSIVベクターは、バイオベンチャーであるディナベック株式会社(茨城県つくば市)が開発したものであり、すでに九州大学病院で実施中の重症虚血肢への遺伝子治療臨床研究に使用されているセンダイウイルスベクターに続き、同社が将来のバイオ医薬品候補として開発を進める国産ウイルスベクターです。色変の疾患モデル動物では視細胞の喪失を効果的に抑制することを確認しており、さらにサルを用いた安全性試験においては、投与後5年の経過観察で安全性に大きな問題がないことが明らかとなっています。
 色変は、現在有効な治療法が全くなく、患者さんは失明の不安を抱えて人生を送っています。今回の臨床研究で安全性が確認され、治療薬としての開発につながれば、患者さんの失明防止に向けた大きな一歩になると考えています。


■視細胞遺伝子治療臨床研究のおおまかな流れ

適応基準

1. 40歳以上の網膜色素変性患者
2. 1年以上九州大学病院で定期的に経過観察されていて、病状が安定していると判断された患者

除外基準 (一部抜粋)

1. 失明している患者
2. 黄斑部合併症(黄斑上膜、黄斑浮腫など)のある患者
3. 緑内障を合併している患者
4. 網膜や網膜下に色変以外の病変(網膜出血など)を合併している患者
5. 心機能障害や肝機能障害など全身状態の悪い患者
6. 妊娠または授乳中の患者

遺伝子治療臨床研究承認、九大(網膜色素変性)

今後の展開

 今後は学内での準備・調整を経て、来春頃のスタートを予定しています。
 実際の臨床研究開始時期等の進捗状況については、九州大学病院眼科ホームページにて随時公表を予定しています。

九州大学病院 眼科

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